余命宣告の最初の関門、半年を10日ほど過ぎていました。元気だった頃の敬子とは全く違っていました。でも、彼女は自らの意志で日々を生き抜いている。そのことを尊重しなければ。それに必死に頑張るのには、理由があると思っていました。葉奈の入学式でした。ここまで弱り切って、痩せ衰えても、そのことを見極めたいのだろうと。病に倒れ、少し持ち直したその時も、葉奈の幼稚園最後の運動会を気にかけて、行きたがっていましたから。意識はとうとう戻らず、呼吸さえも止まってしまい彼女とは話すことは出来ませんが、「葉奈の入学式もうすぐね。」そう言っていると思いました。
2001年4月6日。穏やかな朝でした。バーバが見立ててくれた黄色いワンピースを着て、ジージ、バーバから贈られた真新しいランドセルを背負って、元気に家を出ました。1年1組さん。教室に入る葉奈は少し緊張していたようですが、晴れやかで嬉しそうでした。上級生に手を引かれて体育館に入って来た時、僕を見つけてニッコリと笑ってくれました。彼女にも見せたかった素晴らしい笑顔でした。式は1時間ほどで終わり、葉奈の記念すべき小学校第1日目は終わりました。「葉奈、1年生だね。ちょっとおねえちゃんになったね。」「うん。葉奈ね、頑張るから。ママも頑張ってるから。」「そうだな。ママもそう思っているよ。入学式に来れなくて残念だったけどな。」
家に戻り、着替えて食事を済ませると、早速病院へ行き、入学式のことを彼女に伝えました。「ママ、入学式に行って来たよ。葉奈、嬉しそうだった。バーバが選んでくれた黄色いワンピースがすごく似合ってた。やっぱり明るい色が葉奈らしいな。1年1組さんだよ。」前日35℃まで下がった体温は一転して上がり始めていました。身体中が火照っているようでした。
葉奈の小学校入学。新しい生活の始まりです。その頃ずっと考えていたことがありました。仕事もほとんど手につかない状態だったこともあって、或るスポンサーの仕事がなくなることが決まり、大きな損失になりそうでした。でも、そんなことを気にかけている余裕も意味もないように思えました。彼女は命を賭して、何かを訴えている。そんな彼女を見守らなければ、これまで2人で築き上げて来たことの意味は崩れる。損失はいつか埋められるが。
「ダダ、もう一度初めからよ。今度はダダが自分で切り拓くのよ。私はもう手伝ってあげられないから。頑張って。私の分も。」
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