2005年09月11日

My Dear Keiko

from My Dear Keiko/体温。(抜粋)

 呼吸が停止してからは、敬子の身体の動きも目の動きもなくなってしまいました。看護婦さんに啖を引いてもらう時苦しそうにもがいていた、それさえも。しかし血圧、脈拍は彼女の闘いを物語るかのように日々変動していました。時に140を越える脈拍。上が80を下回るのが続くと状況はますます厳しいと言われた血圧。そしてもうひとつ、日々変動していたものがありました。それは体温でした。それまでのように38℃を越える高熱になる日があると思えば、手足や額に触れると驚くほど冷たくて、その度に不安になりました。たまたま朝中村先生に会えて、そのことを訊ねました。「この所、脈拍や血圧もそうですが、体温も日によって変動が激しくて、かなり低くなってしまうこともあるようなのですが。」「前にもお話ししましたが、呼吸が止まってしまった一番の原因は、腫瘍からまた出血があったことで、前回は緊急手術をして回避した脳ヘルニアが起こり、いや今回は完全に出来上がってしまい、脳幹が再度大きなダメージを受けてしまったことだと考えられますが、その影響を受けて体温調節を司る自律神経系の中枢も壊れてしまったからだと思います。尿の量も毎日調べていますが、今の所はしっかり出ていますね。」「尿の量が減るということにはどんな意味があるのですか?」「腎機能が低下し、腎不全を起こし、重篤な状態に陥る可能性も出て来てしまいます。」
 脳腫瘍が引き金になって、彼女の身体のあらゆる機能に変化が起こっている。本人の意識は戻らず、身体も動くことはないのに次々と過酷な試練が襲って来る。その残酷を恨みたくなる一方で、脳という器官が元気でいることにこんなにも密接に関わっているのだということを痛感させられました。彼女がここまで「生きる力」を振り絞れるのは、脳以外は極めて健康な状態だからでした。
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 結婚して15年、病気らしい病気をしたこともなく、みんなと元気に楽しく過ごして来た彼女が初めて経験した重い病。それがこんなにも深刻なものになってしまうなんて。それが未だに信じられないことがありました。葉奈が自転車の練習をしていた時に、外に出て来て笑いながら、僕たちを見ていた時の優しい顔、忙しい合間を縫って鍵盤に向かっていた時の神妙な顔、・・・・。何もなければ、想い出すこともなかったかも知れないさりげない表情が突然浮かんで来たりしました。
 彼女は、静かにただ静かにベッドに横たわっていました。

at 13:59 | Category : My Dear Keiko | Comments [0] | TB [0]
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